地下鉄に乗ろうと思った。
コンクリートが大口をあけてわたしを待っている。
階段を一段降りるごとに、冷凍庫みたいな風がわたしを冷やす。
きづけば、全くの無音。
あまりの静けさに驚き口を開くと、こぽりと水晶みたいな泡がくちびるからこぼれた。
ああ、わたしは水中にいるのだと気づく。
無重力のような自由の中で、わずかに浮かんでは飛ぶようにして、地中に潜る。
階段を2段飛ばしで、だけど普段よりずっと遅く、沈んでゆく。
どこもかしこも、
透きとおるような、青。
無人の改札。抜けて、ベンチに座る。
まばたく度に、まつげの先が水を掻く。
2回。3回。
ゆっくり目を閉じる。
遠く、電車の音がする。